Amazon EC2 と RightScale

Amazon EC2の提供する抽象インターフェイスは単純で, 指定された計算機イメージをどこかで起動する, という機能のみ提供する. 1台の計算機内に収まるシステムを構成するのであればこれで問題ないのだろうが, 複数のノードが連携したようなシステムを構築したい場合, ユーザへの負担は大きくなる.

ユーザの負担が大きくなるということはそこにビジネスチャンスがある, ということであり, そのようなユーザをサポートする商売が既に立ち上がっている. RightScaleはそのような会社の一つ. このようにビジネスチャンスがあるところに, すぐにちゃんとベンチャーが出てくるあたり, アメリカは実に健全だと思う.

同社のSuccess Storiesのページには, ANIMOTO社の例が出ている. 某所でamazonのCTOのトークを聞いた際にもAnimoto社の例が出ていた. Animotoは, 静止画や動画と音楽をアップロードすると, 音楽を自動的に解析してリズムなどの情報を抽出し, それに合わせてかっこ良く静止画や動画をコラージュした動画を作ってくれるシステム. なんでも当初はサーバ数台で運用していたのだが, Facebookのアプリとして大ヒットしたため, わずか数日のうちに4000台までスケールアップしたのだそうだ. これはもちろんプライマリにはEC2のおかげなわけだが, 負荷の増減に応じて, EC2インスタンスの増減を行ったのがRightScaleのテクノロジである. こちらのブログに詳しい記事がある. どうでもいいがAnimotoのビジネスモデルはどうなってるんだろう? たしかにcoolなビデオが作れるようだけど, ビジネスになるんだろうか?

RightScript

RightScale のコアテクノロジは, RightScriptと呼ぶパッケージングにある. Amazon EC2インスタンスは一般に事前にS3上に用意したゴールデンイメージから起動する. イメージに修正を加えた場合には, そのイメージをまるまるダンプし, S3に保持しておくことになる. この方法では, イメージに些細な修正を加えた場合にも, イメージの再ダンプが必要となる. もちろんこれには時間がかかるし, S3上にちょっとだけ違うイメージを大量に保持することになりかねない.

これに対してRightScaleでは, Templateとよぶ基本的なイメージ上に, 追加のパッケージをインスタンス起動時に追加する方法をとる. このパッケージインストール過程を指示するのがRightScript である. 動作を想像するに, パッケージはS3上に置かれていて, それをダウンロード, 展開した後に, ちょっと凝ったポストスクリプトを実行するのだろう.

機構としては単純だが, 用意されているパッケージがつぼをついていて, MySQLをマスタ・スレーブ構成にして自動複製を取ると同時にときどきS3にバックアップを取るとか, Ruby on Railsをセットアップする, とか非常に実用的. 科学技術計算を指向した, 複数インスタンス上にキューイングシステムを用意するものも存在する.

さすがにこの辺りは有料で, セットアップに2500ドル, 以降毎月500ドルかかる. これは20サーバまでの価格でそれ以上になると別途料金が掛かるようだ. 安くはないような気もするが, サーバ費用だけでも, 0.1*24時間*30日*20台で1440ドルは掛かるので, これが1940ドルになっても大差ないのかもしれない.

DashBoard

RighScale はDashBoardと呼ばれる, EC2および, S3, SQSを容易に管理するためのWebインターフェイスを提供している. これを使うだけなら無料の Developer Account でできる. Amazonのアカウント情報を一切合切渡すことになるのでちょっと怖いが, 大変に便利.

Webインターフェイス上でテンプレートを選んで, クリックするだけであっという間に, インスタンスが立ち上がる. さらに, アイコンをクリックするとAppletで書かれたらしいSSHターミナルが立ち上がって, ログインできる. さらに, 各インスタンスの負荷情報などもグラフで表示してくれるようだ.

Amazon のエコシステム

Amazon のCloud 系Web Serviceの周辺には, RightScaleを始めとする, サードパーティベンダが高付加価値サービスを提供することで, ある種のエコシステムが成立している. S3の運用開始から, わずか2年あまりであることを考えると, そのスピード感に圧倒される. 今後2,3年で世界の様相は変わってしまうのかもしれない.